運動後にアイシングを行うシーンは多くのスポーツで見受けられるようになった。炎症を抑え、早期の回復を目指すためにはアイシングが有効である。しかし、筋発達についてはどうであろうか。最近の研究で、トレーニング後にアイシングをしたところ、衛星細胞の活性が2日にも渡って低下し、筋発達が妨げられたという報告がある。(※1)筋タンパク合成の指標であるp70s6kも低下しており、筋発達を狙う場合、トレーニング後に当該部位のアイシングをすることは避けたほうが良いだろう。解のないように言っておくが、ピッチャーが投球後に肩をアイシングするのは非常に有効だ。ここでは筋発達のためのレジスタンストレーニングについての話をしているのである。さてアイシングが筋発達を妨げるのならば、逆に温めたらどうなのか。ラットを用いた研究では、41度の部屋に一日一時間閉じ込め、一週間後に測定したところ、熱ショックタンパク(HSP72)とカルシニューリンが増加していることが確かめられた。そして筋重量の顕著な増加が認められたのである。(※2)なおこの研究では、トレーニング刺激は与えていない。HSP72は細胞をストレスから護るために分子シャペロンとして働くのだが、レジスタンストレーニングもストレスとしてHSP72を増加させる。ちなみにHSP72は低酸素状態でも増加するため、BFRトレーニングも有効となる。カルシニューリンはCa2+依存性タンパク質脱リン酸化酵素であり、速筋繊維の発達に関わってくる。遅筋繊維にカルシニューリンを作用させたところ、ミオシン重鎖の遺伝子発現が速筋繊維にシフトしたという報告がある。(※3)しかしカルシニューリンはIGFシグナル伝達系を活性化するものの、それ単独では筋発達を引き起こさないことも分かっている。(※4)HSP72との連携が必要なのかもしれない。この研究ではラットのヒラメ筋は顕著に発達したが、長趾伸筋の発達はそれほどでもなかった。HSP72は遅筋繊維に多く発現しており(※5)、熱刺激には遅筋繊維のほうが強く反応しやすいと考えられる。なお「トレーニング前」に熱刺激を与えると、逆に筋発達が阻害されたという報告がある。(※6)熱刺激によってHSPが増加した状態でトレーニングすることは、トレーニングによる刺激を減じてしまうのかもしれない。ヒラメ筋などの遅筋繊維が多いところは、「トレーニング後」にカイロなどで温めると発達が促進される可能性がある。今後の研究展開が望まれるところである。※1:Post-exercise cold water immersion attenuates acute anabolic signalling and long-term adaptations in muscle to strength training.J Physiol. 2015 Jul 14. doi: 10.1113/JP270570.※2:Possible role of calcineurin in heating-related increase of rat muscle mass.Biochem Biophys Res Commun. 2005 Jun 17;331(4):1301-9.※3:Stimulation of slow skeletal muscle fiber gene expression by calcineurin in vivoJ. Biol. Chem., 275 (2000), pp. 4545–4548※4:Calcineurin controls nerve activity-dependent specification of slow skeletal muscle fibers but not muscle growthProc. Natl. Acad. Sci. USA, 98 (2001), pp. 13108–13113※5:Skeletal muscle HSP72 response to mechanical unloading: influence of endurance trainingActa Physiol. Scand., 180 (2004), pp. 387–394※6:Heat stress inhibits skeletal muscle hypertrophy.Cell Stress Chaperones. 2007 Summer;12(2):132-41.