オーバーワークなんて存在しない!と言い切る人がいて、「ヒトでのそういう論文はない」と主張していたりする。そんなのは当たり前の話で、ヒトを相手にオーバーワークに追い込むような過酷な実験、誰も参加したがらないし、やったとしても脱落者続出だろう。しかし残酷だけど、ヒト以外の動物ならそういう実験が可能で、むりやりトレッドミルの上を走らせて筋肉を採取したり、棒に掴まらせて引っ張り、力尽きて棒を離すまで握力を痛めつけたりするようなことができる。ある実験ではラットを使い、12週間に渡って週5日トレーニングさせたところ、タイプ1とタイプ2a繊維が顕著に減少していた。(※1)さて、実際にはどのような機序で筋減少やトレーニング効果の減少が起こるのであろうか。※1の研究では全体的な筋肉量は減っているものの、割合としては速筋繊維が増えているのであるが・・・トレーニングの中でも特にネガティブがダメで、ダウンヒルランニングを行ったところ、アップヒルランニングに比べて筋肥大効果が打ち消されるようだ。ミオスタチンも増加している。なおオーバーワークに伴い、IRS-1が減少している。(※2)IRS-1というのはインスリンレセプターの基質で、これがチロシンリン酸化されることによってPI3Kが活性化されるのである。ウェイトリフターが毎日のようにトレーニングしてもオーバーワークになりにくい理由の一つは、ネガティブの刺激がないためである。またベンチプレッサーなどもネガティブで耐えながら下ろすことは少ないため、頻度が高くてもオーバーワークになりにくい。オーバーワークとはいかないまでも、ネガティブトレーニングによってインスリンシグナル伝達系に悪影響が起こるようであり、さらに炎症シグナル伝達系であるJNKも活性化され、炎症性サイトカインも増加しているようだ。(※3)なおネガティブ刺激によってGLUT4が減少することは知られており、伸張性刺激による過度の物理的ストレスを与えることは、筋発達にとって悪影響でしかない。ただし肝臓においてはこの二つは独立して起こるようで、ダウンヒルランニングによってオーバーワーク状態に追い込んだ場合、炎症性タンパク質の減少を伴わずに、肝臓におけるインスリンシグナル伝達系を改善するという報告もある。ただしTRB3のアップレギュレートにより、aktの低下は起こるようだ。(※4)※1:High-intensity resistance training with insufficient recovery time between bouts induce atrophy and alterations in myosin heavy chain content in rat skeletal muscle.Anat Rec (Hoboken). 2011 Aug;294(8):1393-400. doi: 10.1002/ar.21428. Epub 2011 Jun 28.※2:Downhill Running Excessive Training Inhibits Hypertrophy in Mice Skeletal Muscles with Different Fiber Type Composition.J Cell Physiol. 2015 Sep 18. doi: 10.1002/jcp.25197※3:Eccentric exercise leads to performance decrease and insulin signaling impairment.Med Sci Sports Exerc. 2014 Apr;46(4):686-94. doi: 10.1249/MSS.0000000000000149.• Published: October 7, 2015• DOI: 10.1371/journal.pone.0140020