人と生れたらんしるしには、いかにもして世を遁れむ事こそあらまほしけれ。偏に貪ることをつとめて、菩提(ぼだい)に赴かざらむは、よろづの畜類にかはる所あるまじくや。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・三石巌氏の名言の一つに、「ただ食って寝るだけだったら、それは豚の人生と同じだ」というものがあります。これは何らかの知的活動を行い、それによって得た知識・知恵を周囲に分け与えることの重要さを説いたもので、筆者としても大いに賛同します。トレーナーのSNSを見ていると、「このエクササイズをこうやると、とても効く。詳しく知りたければパーソナルを受講しろ」とか、「このサプリメントはこれと飲み合わせると良い。それが何か知りたい人はセミナーに出ろ」みたいな内容が散見されます。これはかえって読者の反感を買うだけだと思うのですが、営業努力にもいろいろあるということでしょう。トレーナーバブルは、そろそろ弾けると個人的には予測しています。筆者はかなり多くの情報を無料で発信しているのですが、いまだにインプットの量がアウトプットを超えています。今はネットで簡単に文献が読めるだけでなく、筆者のように情報を発信している人が世界には数多くいるからです。無料で得られる情報に価値はない、身銭を切って得た情報にこそ価値がある。そう主張する人もいますが、極貧時代に図書館に通い詰めた筆者の経験上、必ずしもそうだとは思いません。問題は、得た知識をどうするかです。雑多で断片的な情報のままではなんの役にも立たず、それこそ身につきません。新しく得たもの、もともと自分の知識としてあるもの、それぞれのピースをつなぎ合わせ、分析統合して関連付け、ネットワークを形作っていくことが必要です。さて脳のシナプスを形作っていくときに活躍するのがBDNF(Brain-Derived Neurotrophic Factor)という神経栄養因子です。働いていないシナプス(サイレントシナプス)にBDNFが働くと、AMPA受容体が発現してNMDA受容体の抑制が取り除かれ、シナプスが活動するようになるのです。(※1)BDNFが運動によって発現増加が起こることは知られていますが、実はそのメカニズムにケトン体が関与している可能性があります。(※2)この研究では運動によってケトン体(βヒドロキシ酪酸:BHB)が増え、それがBDNF遺伝子のプロモータ活性を増強し、また脳室内にBHBを注入すると海馬のBDNF遺伝子発現が亢進したとされています。ローカーボ・ダイエットによって体内でのケトン体産生を高め、さらに最近出てきたBHBのサプリメントを摂取し、そして運動する。これらの組み合わせによって脳の機能も高まることが十分に期待されます。※1:Brain-derived neurotrophic factor-dependent unmasking of “silent” synapses in the developing mouse barrel cortexProc Natl Acad Sci U S A. 2003 Oct 28;100(22):13069-74. Epub 2003 Oct 13.※2:Exercise promotes the expression of brain derived neurotrophic factor (BDNF) through the action of the ketone body β-hydroxybutyrate.Elife. 2016 Jun 2;5. pii: e15092. doi: 10.7554/eLife.15092.