人のかたり出でたる歌物語の、歌のわろきこそ本意なけれ。すこしその道知らん人は、いみじと思ひては語らじ。すべていとも知らぬ道の物がたりしたる、かたはらいたく聞きにくし。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ブルース・リーは「格闘技を習い始めたばかりの奴が、一番弱い」と喝破しました。トレーニングの世界でも、聞きかじりの知識をドヤ顔で語っているタンクトッパーはどこのジムにもいるものです。確かに見ていて片腹痛いのですが、そういう人たちを虐めるのではなく、温かく見守って育ててあげることが先輩の務めというもので、せいぜい彼らのそばでそっと高重量のバーベルを持ち上げて「本物のトレーニング」を不言実行するだけに留めておきたいものです。さて間違った情報を広められるのは困りますが、ある程度の知識を持った人にとって、情報をアウトプットすることは非常に有益です。他人に説明するためには、何よりも自分の中で情報が整理されていなければなりません。また質問されたときに即座に答えられるようでなければ、ドヤ顔も一気に硬直してしまうことでしょう。情報を整理統合する際には、余計なものを捨て去る必要があります。「あれか、これか」というキルケゴールの著作では、人生では倫理的生活を選ぶべきで、美的生活は捨て去るべきだとしています。「あれも、これも」と、両方を得ようとするのではなく、どちらかを選択せねばならず、良心に従って義務を果たすべきであると説きました。またキルケゴールは客観的な心理ではなく、主体的な心理、すなわち自分にとって正しいとされる心理に目覚めることによってこそ、自己を回復できるとしています。このときは「神の前に立つ単独者」、つまり他人には理解されないけれど、自分だけにはわかっている。そのような状態になってこそ、本当の自分を得ることができるのだと言います。強引にトレーニングに当てはめてしまうと、自由きままにトレーニングしてジムでドヤ顔をしている段階が美的生活で、しっかりしたプログラムの基に勤勉にトレーニングをしてそれなりの身体になり、周りにも気を使えるようになった段階が倫理的生活。そして他人から見るとあり得ないようなやり方だけど、自分の身体を発達させるためにはピッタリの方法を見つけ出し、トレーニングの本当の面白さに目覚めた状態が「単独者」ということになるでしょうか。サプリメントでも同じことは言えて、プロテインを例にとると、古いデータを基に「プロテインは1回20gでタンパク合成が最大になるから、1回に20gだけ飲む」としているような人は倫理的生活に留まっているのではないでしょうか。経験上、20gではぜんぜん足りないということが多くのベテラントレーニーにはわかっており、ベテランは少なくとも一回に40gくらいは飲むことが大半です。最近の報告では一回40gよりも70gのほうがタンパク分解を防げたという結果も出ているくらいで(※)、常識ばかりにとらわれていては「本当の自分」を実現できなくなってしまいます。「守破離」という言葉もありますが、ひとしきり知識・情報を得た後は自分で考えてそれらを咀嚼し、自分なりのやり方を導き出していけるようにしたいものです。※The anabolic response to a meal containing different amounts of protein is not limited by the maximal stimulation of protein synthesis in healthy young adults.Am J Physiol Endocrinol Metab. 2016 Jan 1;310(1):E73-80. doi: 10.1152/ajpendo.00365.2015. Epub 2015 Nov 3.