「事前疲労法」というトレーニングテクニックがある。例えば上腕三頭筋が弱い場合、ベンチプレスをやっても大胸筋が疲労する前に三頭が疲労してしまい、追い込み切れない。そのような場合、先にダンベルフライなどを行って大胸筋だけを疲労させ、その後にベンチプレスを行う。そうすれば三頭がフレッシュな状態で大胸筋だけ既に疲労しているため、ベンチプレスで大胸筋を追い込めるというわけだ。しかし、当然ながらベンチプレスで扱う重量は軽くなる。それで効果はあるのだろうか?バタフライ→ベンチプレス」と、「ベンチプレス→バタフライ」で比較した研究がある(※1、※2)。筋電図の測定によると、大胸筋への刺激はほとんど変わらなかったようだ。ただし「バタフライ→ベンチプレス」の方は、上腕三頭筋への刺激が著しく大きくなったらしい。これは結局、「ベンチの時には既に大胸筋が疲れていたので、三頭を使って挙げてしまった」ということだろう。それでは事前疲労法の意味がない。またこの研究では両群とも同じ重量を使っている。つまり事前疲労法で行ったほうは、本来ならさらに大胸筋への刺激が弱くなっていたのかもしれない。では下半身ならどうか。「レッグエクステンション→レッグプレス」と「レッグプレスのみ」で比較した研究がある(※3)。ここではさらに残念な結果が出ており、事前疲労法を行ったほうは大腿直筋と外側広筋への刺激が顕著に低下しており、大殿筋への刺激は同等だったとのことだ。どうも事前疲労法の旗色は悪い。先に対象筋を強く刺激してしまうと、コンパウンド種目の時にむしろ補助筋を強く使ってしまうようだ。ここで、面白い報告を紹介しよう。“あまり事前に追い込まないようにすると”、コンパウンド種目で強い刺激を与えられるようなのだ。(※4)この研究ではマックスの30%の重量で15回のレッグエクステンションを行い、その後にレッグプレスを行っている。軽い重量で追い込まない程度の刺激を与えると、対象筋が促通されるのであろうか。どうも対象筋が効きにくいというトレーニーは、先にアイソレーション種目を“軽く”行い、その後にコンパウンド種目を行う。それが解決法の一つとなるのかもしれない。※1 : J Strength Cond Res. 2007 Nov;21(4):1082-6 Effects of exercise order on upper-body muscle activation and exercise performance.※2 : J Strength Cond Res. 2009 Oct;23(7):1933-40. doi: 10.1519/JSC.0b013e3181b73b8f. Neuromuscular activity during bench press exercise performed with and without the preexhaustion method※3 : J Strength Cond Res. 2003 May;17(2):411-6. Effect of pre-exhaustion exercise on lower-extremity muscle activation during a leg press exercise.※4 : Electromyographic analyses of musclepre-activation induced by single joint exercisehttp://www.scielo.br/pdf/rbfis/v14n2/enaop00510.pdf