通常のトレーニングにおいてポジティブとネガティブのテンポは重要となるが、それはBFRトレーニングにおいても同様である。通常はネガティブを重視し、ゆっくりとコントロールしながら下ろしていくことが推奨されている。そのほうがミオスタチンの減少やMGFなどの成長因子発現を強く引き起こすからだ。(※1)しかしBFRトレーニングの場合、ヒトでの研究においてポジティブを重視して行ったほうが良好な結果が得られている。(※2)週3回のダンベルカールをBFRによって6週間行ったところ、ポジティブ重視のほうは上腕二頭筋の筋体積が12.5%増加したのに対し、ネガティブ重視のほうは筋体積の増加が2.9%に留まったのである。ネガティブでは速筋が主に使われる。またBFRトレーニングも速筋が優位に使われる。そのため、BFRでネガティブを重視すると、効果が重複してしまうのかもしれない。ここでラットを用いた面白い研究を紹介しよう。ラットに電気刺激を与えて強制的にネガティブの負荷を加えたところ、通常は26.4%のダメージを筋肉が受けるのであるが、BFRの場合は筋ダメージがほとんど無視できる程度に小さくなったのである。(※3)しかしそれでいて、筋タンパク合成率は通常のネガティブ刺激の場合と同様であった。研究者の推論としては、stretch‐activated ion channels を介したカルシウムイオンの流入が細胞膜を傷つけることがネガティブによる筋損傷の原因であるが、BFRによってカルシウムイオンの増加が阻害されたのではないかというものだ。これは非常に面白い結果であって、BFRネガティブトレーニングを行った場合、筋ダメージが少ない状態でトレーニング効果のみを享受できるということになる。例えばシーズン中のアスリートや、技術練習を主に行うが筋力は低下させたくないないというアスリートたちにとって、一つのヒントとなるかもしれない。※1:Short-term strength training and the expression of myostatin and IGF-I isoforms in rat muscle and tendon: differential effects of specific contraction types.J Appl Physiol (1985). 2007 Feb;102(2):573-81. Epub 2006 Oct 12.※2:Effects of blood flow restricted low-intensity concentric or eccentric training on muscle size and strength.PLoS One. 2012;7(12):e52843. doi: 10.1371/journal.pone.0052843. Epub 2012 Dec 31.※3:Blood flow restriction prevents muscle damage but not protein synthesis signaling following eccentric contractions.Physiol Rep. 2015 Jul;3(7). pii: e12449. doi: 10.14814/phy2.12449.