数十年前までは運動中にどんなドリンクを飲むかについては、まったく考慮されていなかった。筆者も学生のころ、「運動中はただの水で十分である」と結論付けたアスリート向けの教科書を、何冊も読んだ記憶がある。そして20年ほど前から、「ポストワークアウトドリンク」の重要性が叫ばれるようになった。アイアンマンなどで特集され、トレーニング後にはプロテインだけでなく、糖質も摂取するようになった。それからほどなくして現在に至り、今では「イントラワークアウトドリンク」として、トレーニング中に糖質を摂取することが常識化しつつある。ポストにしろイントラにしろ、この場合は消化吸収の早さが重要となる。運動中に胃がタポタポしては困るのだ。運動後も、できるだけ早くグリコーゲンを回復させ、インスリンを出して筋分解を防ぐと同時に筋合成を活発にしなければならない。吸収の早い糖質としては、ブドウ糖やマルトデキストリン、粉飴などが低予算派の主流であり、高予算派はヴィターゴやCCDを使う。ブドウ糖は消化の必要がないが、浸透圧の関係で胃もたれしたり下痢を引き起こしたりしてしまうのに対し、ヴィターゴやCCDは高分子なので浸透圧が低く、胃もたれや下痢をしにくいのである。では実際のところ、どれくらい違うのか。平均23歳の熟練トレーニー16名を対象に、体重1kgあたり1.2gの糖質を含んだ溶液(濃度10%)を飲ませた。その結果、インスリンに関しては低分子と高分子も同じように、40分後にピークを迎えた。グルカゴンは低分子のほうが早く低下した。そして高分子のほうが血糖値の高い状態が長く(10分)続いた。(※1)これだけだとあまり違いはないように思われるが、スクワットを10回5セット行わせたところ、4セット目と5セット目において高分子群のほうがパワーが持続しており、低分子群は糖質を摂取しなかった群と変わらなかった。ただ、それほど大きな違いではない。(※2)なお高分子群はヴィターゴを使用した。この研究では、被験者のグリコーゲンを枯渇させた状態で行っているため、運動前に十分な糖質を摂取している場合は、あまり変化はなかったかもしれない。ただし運動前の食事は、やや高脂肪のほうがグリコーゲンの節約になるため効果的だとする報告もある。(※3)量の多いトレーニングをする場合や、一日に2回運動する場合(一回は技術練習、一回はウェイトなど)は、ヴィターゴやCCDのメリットが活かされてくるようだ。低予算の場合は、運動前にしっかりと糖質と脂質の含まれた食事をして(胃もたれしない程度に)、エネルギーが持続するように心がけたい。※1:Effect of post-exercise ingestion of different molecular weight carbohydrate solutions. Part 1: The glucose and insulin response※2:Effect of post-exercise ingestion of different molecular weight carbohydrate solutions. Part III: Power output during a subsequent resistance training bout※3:Pre-Exercise Nutrition: The Role of Macronutrients, Modified Starches and Supplements on Metabolism and Endurance PerformanceNutrients. 2014 May; 6(5): 1782–1808.