プロ・ボディビルダーの多くが心臓血管系疾患に悩まされており、まだ若いのに他界する例も稀ではないようです。彼らにはそのリスクが分かっていたはずで、それなりの対処もしていたはずなのに、なぜそのようなことが起こるのでしょうか。対処の主なものとしては、おそらく「有酸素運動」であり、また「血液検査」です。しかしコレステロール値を診ても、実は心臓血管系疾患の予防には、あまり役立たないのです。筆者は様々なところでコレステロールの真実について解説しており、酸化LDLやホモシステインなどについても紹介しているのですが、ここ数年になって、また新しい情報が出てきました。HDL Cholesterol Efflux Capacity and Incident Cardiovascular EventsNovember 18, 2014DOI: 10.1056/NEJMoa1409065コレステロールには善玉(HDL)と悪玉(LDL)があって、HDLは血管壁に溜まったコレステロールを回収し、LDLは肝臓から身体の様々な場所にコレステロールを運び込みます。コレステロールを回収するというのは、主にマクロファージからコレステロールを引き抜いて肝臓に戻すということ。そのため、HDLは善玉と呼ばれるわけです。しかし実は、血液検査におけるHDLの数値が良くても、あまり心臓血管系疾患の予防にはならないということが分かってきました。上で紹介したNEJMの論文によれば、重要なのは血中HDLではなく、HDLの持つMacrophage-specific cholesterol efflux capacity 、すなわちマクロファージからのコレステロール取り込み能力だったのです。血中HDLは、ナイアシンやある種の薬剤を摂取したり、有酸素運動を行ったりすることによって、数値を高めることができます。しかしそれだけではダメで、HDLの血中レベルを高めるだけでなく、HDLのコレステロール取り込み機能を高めることが重要だということ。では、どうすれば良いのでしょうか。HDL and Cardiovascular-Disease Risk — Time for a New Approach?http://perruchenautomne.eu/biblio/hdl%20NEJM%202011/NEJMe1012520.pdfJay Heinecke, M.D. によれば、酸化ストレスがHDLの機能障害に関係しているとのこと。つまりスカベンジャーを摂取することが、やはり重要だということになりそうです。これはもちろん酸化LDLの悪影響を避けることにもつながります。またインスリン感受性を高めるピオグリタゾンには、cholesterol efflux capacityを高める作用があるようです。これはアポリポタンパクA1の転写を高めることに拠るものです。血糖値を低めに保ち、インスリン感受性を高くキープしておくことが、HDLの機能を亢進させ、心臓血管系疾患を予防することにつながってくるのかもしれません。Cholesterol efflux capacity, high-density lipoprotein function, and atherosclerosis.N Engl J Med. 2011 Jan 13;364(2):127-35. doi: 10.1056/NEJMoa1001689.