多くの場合、ベンチプレスのグリップは「ワイド」である。ワイドというのは具体的にどれくらいかと言うと、一般的には「81cmのマークに人差し指あるいは中指」がかかるくらいであろう。もちろん身長や手の長さなどで変わってくるが。そして一般的な認識から言えば、ナローグリップだと上腕三頭筋への刺激が強くなり、大胸筋への刺激は弱まる。物理的に考えても、ナローグリップのほうがボトムで肘を深く曲げることになるため、確かにそうなりそうだ。しかしClemonsらの研究によれば、必ずしもそうではない。彼らは平均7年間のベンチプレス経験のある男性トレーニー12人を使って4種類のグリップ(肩幅を100%とし、100%と135%、165%、190%)に分けて筋電図を測定した。なお使用重量はすべて同じ。結果はというと、・肩幅の190%において、もっとも強い収縮が見られた・100%と135%では、190%に比べてかなり収縮が弱かった・上腕三頭筋の収縮は、グリップ幅によって違いは見られなかった・グリップ幅における各筋肉群の稼働率は、あまり変化が見られなかった。そして190%の手幅が広すぎてやりにくいようだったら、165%と190%の間のグリップで行うと良いだろうと研究者は言っている。もちろんこれと対立する研究もいくつかあり、Clemonsの出した結果だけを盲信するわけにもいかない。ただし、ひとつの参考にはなるだろう。一般的な肩幅は、平均身長の日本人男性で45cm程度。しかしこの実験ではアメリカ人のトレーニング経験者だから、もう少し大きいはずだ。ちなみにアメリカンイーグルのXLだと肩幅が約48cm。その190%となると91cm程度の手幅(中指どうしの幅)となる。また45cmの190%は85~86cmだ。となると、一般的に考えられているグリップよりも、かなりワイドに握ったほうが筋肉への刺激も強くなるし、発揮できる筋力も高くなるという可能性がある。またワイドのほうがストレッチ刺激も強くなるため、伸展反射も期待できるだろう。ベンチプレスをやっても、なかなか胸に効かないという場合、思い切ってワイドにしてみるテがある。このとき、81cmのラインはまったく気にせず行ってよい。ちなみにBarnettらやLehmanらの行った研究によれば、グリップをナローにすればするほど、大胸筋上部(鎖骨部)への刺激が強くなり、ワイドにするほど大胸筋下部(胸肋部)への刺激が強くなったという。インクラインベンチプレスでは大胸筋上部への刺激は意外に弱く、むしろデクラインのほうが上部に強い刺激が与えられるという研究もある。インクラインベンチでは三角筋前部に、刺激の大半が移行してしまうのだ。大胸筋上部が弱いトレーニーは、インクラインに固執するよりも、むしろナローグリップでのフラットあるいはデクラインでのベンチプレスを行ったほうが良い結果が出る可能性もある。