かくてもあられけるよとあはれに見るほどに、かなたの庭に、大きなる柑子の木の、枝もたわゝになりたるが、まはりをきびしく囲ひたりしこそ、 少しことさめて、この木なからましかばと覚えしか。人には誰しも弱点はあるもので、他は非常に優れているのに、たった一つの欠点があるだけで、全体的な魅力がひどく損なわれてしまうということは良くあるものです。ボディビルの審査もそれと同じで、他の部位は素晴らしく発達しているのに、弱点となる部位が際立ってしまうと、一気に順位は下がってしまいます。しかし人間の場合は、欠点があっても他の長所で補うということができます。顔の造作が悪くても身長が高かったり、少々性格に難があってもお金持ちだったりすれば、トータルで巻き返すことが可能です。ただし、ボディビルは違います。上半身はすごいのに下半身はダメだという場合、上半身のすごさがむしろ下半身の弱点を強調してしまいます。さて、そこで役立つのがポージングです。ポーズを上手にとることで、弱点を隠すことが少しはできるものです。これを人間に例えるなら、化粧をして顔の造作をごまかしたり、ファッションに気を付けて身長や体型を良く見せたりすることに相当するでしょうか。しかしどちらの場合も、「その場しのぎ」でしかありません。熟練した審査員の前ではポージングでごまかせる分など知れたものですし、いつかは化粧を落としてスッピンを見せる必要があります。では、その場しのぎに意味はないのでしょうか。そんなこともありません。自分の弱点を堂々と見せて勝負、と言えば聞こえは良いのですが、正直者はバカを見るというたとえもあります。第一印象だけでも良くすることで、その後の流れが大きく変わってくる可能性は、いつだってあるのです。また、その場しのぎをしようとする努力そのものが、本質を改善するということもあります。弱点のポージングを練習しているうちにマッスルコントロールが上手くなって効かせられるようになり、弱点が改善される。化粧やファッションに気を遣って周りからの視線をいつも意識することにより、年を重ねてもきれいなままでいられる。その場しのぎをしようとする努力は、弱点だからと開き直って諦めさせることなく、いつしか弱点を改善しようとする根本的な努力につながってくるのです。TV通販などで売られているバカバカしいダイエット器具を購入する人を見て、眉をひそめる人もいるかもしれません。しかしその層の一部は、いつか本格的にジムに通いだすかもしれないのです。最初からダイエットを諦めてしまっていないのだから。どうせ人間はいつか死ぬんだから、好きに飲み食いしてタバコも喫って、運動なんかしないで毎日ゴロゴロして暮らそう、という人もいます。その気持ちもわかりますが、そう簡単にあきらめず、少しだけ、足掻いてみませんか?