同じ心ならん人としめやかに物語して、をかしき事も、世のはかなき事も、 うらなく言ひ慰まんこそうれしかるべきに、さる人あるまじければ、 つゆ違)はざらんと向ひゐたらんは、たゞひとりある心地やせん。筆者がトレーニングを始めたころは、大手のスポーツクラブはウェイトの設備が充実しておらず、シリアスなトレーニーはみんな個人経営のボディビルジムに通ったものです。ジムではメンバーたちが和気藹々とし、器具は譲り合って使い、お互いに補助をしあい、ときには皆で食事に行ったり、海に日焼けにいったりしていました。まるで大家族のようだったのです。今はスポーツクラブや大手のジムにウェイトの設備が揃い、個人経営のジムは淘汰される傾向にあります。そして大手のジムにおけるメンバー同士の距離感は、会えば挨拶はするものの、かなり余所余所しい感じになってしまっているのではないでしょうか。もちろんトレーニングのために行くのですから、それで良いのかもしれません。しかしジム内で派閥ができたり、陰口が聞かれるようになったり、ロクに指導できないトレーナーが突っ立っているだけだったりでは、足が遠のいてしまいかねません。個人経営のジムはコミュニティが小さく、情報はすぐに伝わります。陰口も叩きにくく、逆に良い情報は隠されることなく、すぐに共有されます。雑誌で新しいトレーニング法やサプリメントが紹介されたりすると、いち早く誰かがそれを試し、その結果を参考に他のメンバーが改善・発展させていき、良い結果を導き出していきます。それはそのジムのトレーナーのスキルともなり、メンバー全員に共有されます。今はネットで情報を得ることはできますが、どれくらいのレベルの人が行ったか、どんなタイミングだったか、どれくらいの量だったかなどで結果は大きく違ってきますし、詳しく質問することもできません。大ウソを書くとまではいかなくても、ステマをする人だっているかもしれません。ネットの体験談では、隔靴掻痒の感を免れないのです。同じ志を持つ、同じコミュニティの友人だったら、安心して情報を共有できます。簡易な二重盲検法や、クロスオーバー研究もどきを行うことだってできるでしょう。医学文献データベースをチェックすれば、トレーニングやサプリメントにおけるある程度の情報を得ることはできます。しかし多くの研究はトレーニングを知らない研究者によってデザインされており、またベテランではないトレーニーを対象にした研究であり、ジムで得られる生きた情報とは性質が全く違うのです。長い歴史を持つ中医学(日本の漢方ではない)は、壮大な人体実験のもとにできあがった体系です。多くのボディビルダーが行っている現在のトレーニングも、それに類したものと言えるでしょう。しかし中医学の発展が人体実験が禁止されるとともに頭打ちになったように、日本のボディビル的トレーニングも、大手クラブの台頭とともに、進歩が緩やかになってしまうのかもしれません。そうならないよう、尽力したいところです。