「かんじんかなめ」という言葉があります。かなめは「要」、かんじんは「肝心」と書くことが多いものの、本来は「肝腎」と書くようです。つまり肝臓と腎臓の重要性が、この言葉に表れています。しかし、肝臓や腎臓のための薬というのは、西洋以外では良いものがありません。コレステロールや中性脂肪を下げたり血液が固まるのを防いだりして心臓血管系疾患を予防する薬や、胃酸の分泌やピロリ菌を殺菌して胃を護る薬などはあります。しかし肝臓のためにはせいぜいインターフェロンの他、強力ミノファーゲンとかグルタチオン、BCAAなどのアミノ酸製剤くらいしかありません。そこで漢方薬の出番となりました。「小柴胡湯」です。保険漢方が認められるようになってから、肝炎の患者には小柴胡湯が頻繁に用いられるようになりました。それは確かに一定の効果をあげました。しかしこの連載の最初にも書きましたが、病名や症状に応じて処方する日本の漢方(方証相対)の弱点が顕れ、間質性肺炎という副作用が出るようになってしまったのです。肝炎患者に小柴胡湯を処方して間質性肺炎になるのはインターフェロンを併用している場合が多く、西洋医学的な説明では「肺の線維化を促すようなサイトカインが発現する」ということになっています。これを中医学的に説明すると、全く違います。本来、漢方薬は個人の体質によって処方を変えるべきだというのが基本なのに、誰にでも同じく小柴胡湯を処方してしまったこと。また小柴胡湯は本来、慢性疾患に使用するものではなく、短期的な服薬で効果をあげるべきもの。長期に小柴胡湯を使うと、それは「肺や肝胆の熱を冷ます」ことになり、それが過ぎると肺や肝胆が気虚となってしまう、ということです。小柴胡湯は本来、風邪の後期や肺炎、ぜんそく、膠原病、胃炎などに使われてきたもので、肝炎のための処方ではありません。では、漢方の世界では肝臓のために何が使われるのでしょうか。まずは漢方の秘薬とも言える「牛黄製剤」。ただしかなり効果です。その他には「へんしこう」や「田七人参」、前にも紹介した補中益気湯や茵陳五苓散などが良く使われます。ただしもちろん「個人に合った処方」をしてもらうことが大事ですので、信頼できる漢方薬局や漢方医の診断を仰ぐようにしてください。肝臓のためのサプリメントというと、有名なのは「ウコン」です。ウコンも漢方の生薬の一つであり、また春ウコンやら秋ウコンやら様々な種類があるため面倒なのですが、主要な成分は「クルクミン」です。しかしクルクミンは非常に吸収率が悪く、「ウコンのなんとか」というドリンクなどはほとんど効果がありません。クルクミンの吸収率を高めた「セラクルミン」というサプリメントがあって、まだ高いのですが、肝臓に悩んでいる方にはお勧めできるものの一つです。しかし最近になってクルクミンの吸収率を簡単に高める方法が分かってきましたので、少し待てばもっと安価に吸収率の高いものが入手できるようになるでしょう。方法としては、「ヒマシ油とPEG(ポリエチレングリコール)でエマルジョン化」するだけですので、個人でもやろうと思えばできるはずです。Oral Administration of Nano-Emulsion Curcumin in Mice Suppresses Inflammatory-Induced NFκB Signaling and Macrophage Migrationhttp://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0111559肝臓を保護するサプリメントとしては、他にシリマリンやリポ酸、NAC、コオウレン、シザンドラなどなど様々なものがあります。別の機会に詳しく紹介していきましょう。